この記事の目次
- ▼ 民事信託?家族信託?相続対策におすすめの制度
- ▼ 民事信託・家族信託のメリットとデメリットとは?
- ▼ 商事信託?民事信託とは違うの?信託の種類を解説
- ▼ 信託の仕組みを解説|専門用語もわかりやすく
- ▼ まとめ
民事信託?家族信託?相続対策におすすめの制度
みなさん、民事信託・家族信託ってご存知でしょうか?ここではまず最初に、「民事信託」や「家族信託」というものがどのようなものなのか、どのような場合に利用されるものなのかについて結論をお伝えします。「民事信託」や「家族信託」は、不動産等の財産をお持ちの方が認知症等の判断能力が不十分になり、財産が凍結されご家族や親族での管理運用が難しくなる前に対策するものです。
では、なぜご家族や親族での管理運用が難しくなるかというと、ご本人の判断能力が不十分になった場合、預金口座は銀行窓口等での引き出しができなくなり、不動産の売買や契約の更新等の管理運用ができなくなります。また、銀行等の窓口で預金の引き出しを行うと、成年後見人を付けてくださいと案内され、成年後見制度の申立をすると後見人が付されます。
後見人は家庭裁判所により選任され、後見人の職務はご本人の財産をご本人の為に使用し、ご本人の財産を守る事です。よって、財産の管理は基本的に後見人が職務で行う為、ご家族や親族でご本人の財産を管理することが難しくなります。
そこで、成年後見制度が始まる前に、事前に信頼できるご家族や親族に財産を託して管理してもらう制度が、「民事信託」や「家族信託」と呼ばれる制度です。この「民事信託」や「家族信託」はあくまでもご本人の判断能力がある場合でないと、契約することができないので、早めの対策がとても重要となります。
民事信託・家族信託のメリットとデメリットとは?
【メリット】
その①:ご本人(委託者)の判断能力に影響を受けずに信託財産の管理運用が可能
上記で説明させて頂いた通り、ご本人の判断能力が不十分になってしまうと財産が凍結してしまい、財産の管理・運用が難しくなってしまいます。しかし家族信託を利用すれば、財産を託された方が財産を管理・運用する為、ご本人の判断能力に関係なく、引き続きご本人財産の管理・運用を継続することが可能となります。
その②:ご本人(委託者)の想いに沿った財産承継の実現が可能
家族信託契約は、ご本人の判断能力が十分な状態で契約を結ぶ為、ご本人の想い・意思に沿った財産承継の実現が可能です。例えば、ご本人のご相続が発生した後は御子息の為に財産管理を行って欲しい場合はもちろん、障がいのある御子息がいらっしゃる場合に御子息のための財産管理をお願いしたい等、契約でできるだけご本人の想いを実現させることが可能となります。詳しい信託の仕組みについては、この後ご紹介する「信託の仕組み」にてご説明します。
その③:相続が発生しても相続人に負担の少ない相続手続きを実現
信託契約は遺言のような機能も併せ持ちますが、遺言書とは異なり、数次に渡った承継者を定めることができます。例えば、ご本人に相続が発生した場合には、信託の利益を配偶者に、配偶者が亡くなった場合には御子息に、のように相続が複数発生した場合にも対応できるよう、信託契約で内容を定めることができます。
その④:財産を託された方が破産しても信託財産には影響なし
信託財産を託す際に心配になるのが、託した相手(託された方)が破産してしまった場合は、信託した財産はどうなってしまうのかということです。信託した財産は、託した相手の財産とは別の財産として定義されておりますので、もし万が一託した相手(託された方)がお金に困ってしまい、破産されても信託財産に影響があることはありません。
また、当事者の状況に応じて信託契約をいつ終了させるのか、どのような状況になった場合に終了させるのかを信託契約の条項に定めておくこともでき、通常は信託の終了事由を信託の設計段階で条項に設けておきます。
【デメリット】
その①:信託契約は財産管理契約であり身上監護権がない
上記の説明から信託契約は、ご本人の想いに沿った柔軟な財産管理の実行を実現することができる事を理解いただけたと思いますが、注意しなければいけない点として、信託契約はあくまでも財産の管理契約であるという事です。これが何を意味するかというと、身上監護権が備わっていないため、任意後見契約を同時に契約しておくなどの対応も検討する必要があります。
その②:財産を託された方の負担やご家族や親族の理解が必要
信託契約は、財産を託す人、託される人(管理をする人)が存在するため、託された方の管理をする労力や託された方の信託財産に対する影響力が強いので、その他の相続人に対する契約の事情や内容を説明の上、理解してもらう必要があります。
その③:税務上損益通算ができない場合がある
収益できる不動産等の物件を信託財産とした場合、信託財産による赤字は信託財産以外の収益不動産の所得と損益通算して、課税所得を減らすことができず、信託不動産の損失の翌年繰り越し等もすることができないので、収益不動産等を信託財産とする場合には、よく検討の上、契約を設計する必要があります。
商事信託?民事信託とは違うの?信託の種類を解説
信託というのは信託銀行等が取り扱っている「商事信託」と今回ご紹介する「民事信託」という2つの種類があります。こちらは、信託銀行等の受託者と呼ばれる方が、営利を目的として反復継続して信託の引受を行う場合を「商事信託」といい、それ以外の商事信託に当たらない場合を「民事信託」といいます。
それでは、「民事信託」と「家族信託」は何が違うのかというと、家族信託は民事信託の一部で信頼できる家族や親族間で利用されることが多いため、「家族」という言葉が付けられております。「民事信託」と「家族信託」の違いについてなんとなく理解いただけたと思いますので、今度は「信託」というものの仕組みについて説明していきます。
信託の仕組みを解説|専門用語もわかりやすく
「信託」という仕組みは通常あまり馴染みのないものなので、理解しにくい部分もあるかと思いますが、仕組みのイメージだけでも掴めれば問題ありません。ここでは全てを理解しようとするのではなく、イメージだけ掴んでいきましょう。
「信託」の仕組みを説明する上で登場人物が3人登場します。信託という基本の仕組みを理解する上で欠かせないものとなりますので、まず、この3人がどのような人物か説明していきます。ただし、それぞれの名称までしっかり覚える必要はありません、どのような感じかイメージできるだけで十分です。
例:生活のサポートをしてくれる甥夫婦に財産を渡したい
一人で住んでいるおじいちゃんが、生活の面倒をよく見てくれている甥夫婦に対して、これからも面倒を見てもらう代わりに、自分が亡くなったら預貯金や不動産等の財産の全てを甥夫婦に残してあげたいと考えているとします。
最近、物忘れが多くなっており認知症も心配になってきました。自分が認知症になった時に備えて信託契約を結ぶことにしました。
今回の場合、信託財産として、預貯金の一部と居住用の不動産を信託することにしました。この場合、財産を託された甥夫婦は今まで通り、信託された財産を使用し、おじいちゃんの生活をサポートします。そして、もしおじいちゃんが亡くなった場合、残った財産は甥夫婦のものになるという契約のため、最終的な権利は甥夫婦が取得することになります。
これが、もし対策をせずに認知症になってしまった場合は、認知症になってしまうと預貯金が凍結され、家庭裁判所により後見人が選任されます。選任されると後見人に対する報酬はもちろん、財産の使用の幅もご本人の為だけのものに制限されてしまいます。
そして相続が発生した場合には、おじいちゃんの兄弟姉妹と甥が遺産分割協議を行い、財産の帰属について話し合いを行い決定します。甥の配偶者については、近年の民法改正により、特別の寄与料の請求が認められれば、それぞれの相続人に対し特別の寄与料の請求をすることができますが、実務上、事前にこの手続きを理解した上で準備しないとなかなか難しいのではないかと思います。
今回の例はあくまでも1例で、信託契約以外にも、遺言と任意後見契約を使用して、おじいちゃんの意思の尊重した相続対策を行うことも可能です。遺言書や任意後見契約、信託契約はそれぞれ制度の強みや弱みがあるので、ご自身の状況に合わせて使い分けるのが、一番良い相続対策と言えます。
信託契約の登場人物についての解説
信託契約においては、登場人物が3人登場します。1人目が「委託者」と呼ばれる人です。今回おじいちゃんが委託者にあたります。この方は信託を利用したいと考えている人、信託を利用して財産の運用等をお願いしたいと考えている人の事をいいます。
2人目が「受託者」と呼ばれる人で、今回は甥夫婦がこの受託者にあたります。この方は委託者との信託契約に沿って財産の管理・運用・処分を行う人の事をいいます。
3人目が「受益者」と呼ばれる人で、今回のおじいちゃんがこの受益者にあたります。受益者とは、信託契約により信託の利益を受け取る人が該当します。「委託者」と「受益者」は別々の人を定めても問題ありませんが、今回のように登場人物が少ない場合や、シンプルな信託契約を行う場合には同一人となる場合が多いです。
この「委託者」・「受託者」・「受益者」という概念はすごくわかりにくいと思いますので、今回は例であげさせていただいたように、財産を管理運用できなくなる前に、自分が判断能力が亡くなった時に備えて自分の信頼できる人に、財産を託す契約ができるというのが簡単にいう信託契約です。
まとめ
いかがだったでしょうか。信託について少し理解を深めていただけたでしょうか?信託についてのもう少し深掘りした話は、また別の記事でご紹介していきます。信託はとても便利な制度ですが、何でもかんでも信託を利用するのではなく、遺言や任意後見等の他の制度と併用して、ご自身にあった相続対策を行いましょう。